ように蒼白く光っていて靴鋲《ネール》が充分喰込まないような所もあって、ピッケルを持たない二人のために二、三度確保したりする。雪渓の最後は巨大な雪塊が群立ち、写真で見る氷河の感を与えて自分たちを喜ばす。この小さいセラックスのような間を抜け出て、ようやく奥壁の岩場の最下端に達する事の出来たのは八時半頃であった。これから上は見上《みあげ》るかぎり傲頑《ごうがん》な岩壁である。僅かな休息の時を採ると、直ちにすぐ上に拡《ひろが》っているなめたような一枚岩の大きな岩場を、縦に走っている岩の節理に導かれながら登って行く。
この一枚岩のきれいに磨かれた岩場は、三十度あまりの傾斜なので、気持よくぐんぐんと登り、さして困難なところもなく程なく百米ほど上の台地に達した。丁度そこは上のリンネ(本沢)から水が辷り落ちている所なので、第一回の食事を摂《と》る事にする。上の霧は盛んに東へと巻いているが、少しく雲切がしては薄日がさすので、のんびりと美しい岩の相貌を楽しむ。白く見え隠れして流れる湯檜曾《ゆびそ》川の森林帯から、今まで登って来た沢や雪渓が足下まで延上っている。左右の懸崖は六十度ほどの角度を以って落込み、
前へ
次へ
全14ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小川 登喜男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング