たが、高々六、七百メートルのこの辺にこのような大残雪を見出した事は意外であったし、また嬉しくもあった。
 雪渓の下端は洞窟のように融け込み、大きな口を開いてのしかかっているので、いずれかの岩壁を搦《から》んで、すこし上から降りなければならない。両岸はともに草の混った急傾斜である。自分たちは右を登り、念のためロープを付けて雪渓へと下った。冷《つめた》い朝の微風は心地よく頬をなぶる。時々前面の岩壁を見上げながら、堅雪の上をポツポツ登って行くと、やがて衝立岩《ついたていわ》の真下辺りで、二ノ沢の落込む少し上で、雪渓はくびれたようになって幅一|米《メートル》半ほどの裂罅《れっか》が雪渓を上下に切り裂いている。
 自分たちは、是非《ぜひ》奥の壁に近づいて見たいと思っていたので、うまく飛越せはしまいかと狭まそうな所を捜して裂罅の縁を歩いて見たが、向こう側がやや高いし、蒼白く裂け込んでいる深いその中を覗《のぞ》くと、余りいい気持がしないので暫《しばら》くためらっていた。しかし自分が右手の一枚岩の岩場を下から大きくまいて上へ出るルートを考えていると、田名部が「ブロックを作ってロープで降りようじゃないか
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