心に生々と甦《よみが》える岩の回想を語り合う。やがて激しい疲れにうとうとすると寒さが揺り起す。時たま暗い霧がうすれて月影がにじむ。
こうして一時間おき位に時計を出して見ては、ひたすらに光に焦《こが》れながら、思出多い一夜を過して行った。
翌朝四時うっすらと明け初めると共に直ぐに道を捜し、道の導くままに西黒沢へと下って行った。そして早朝暖い陽を浴びて湯檜曾の温泉へと達し得た。
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〔註〕市ノ倉沢側はこの谷川岳東面の岩場の中でも最も大きく、かつ複雑なものであって、興味ある未登攀のいくつかのルートを蔵しており、これからの研究に待つ所大であるが、それについても大体著しい沢(多くリンネ乃至ルンゼであるが)その他の名称を定めておく事は、記録をとる上にも、これから遊ばれる人々にとっても必要な事と思われる。自分は今までの諸記録、殊《こと》に『関西学生山岳聯盟報告』第二号のスケッチマップ、及び『山と渓谷』第九号の黒田正夫氏のものを参考とし、自分たちの観察した所に基いて概念図を作って見た。この中《うち》一ノ沢、二ノ沢、衝立《ついたて》沢の方面は未だ自分の知らない領域であり、滝沢は
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