全く手がつけられていない所である。
 奥の壁の中、本沢(ノゾキの沢という呼称はとらない)は下からでは衝立岩の陰になって全く窺う事が出来ない。その左の水のあるリンネは、前記の記録の如く昨年始めて自分たちのとったルートであって、市ノ倉沢の下から眺めると、衝立岩の急峻な左の尾根のすぐ横に、細く暗く真直ぐに割込んで見える特徴のあるリンネを指す。このリンネの左になお凹んだ岩場があるが、それはリンネといわれるよりもむしろ凹んだ壁であって、その一番左に、手前の急峻な尾根に添って長いチムニー状のリンネ(勿論入口まで行かないと解らない)が入っているだけである。なお本沢のリンネに依る登攀も最近試みられた。
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底本:「山の旅 大正・昭和篇」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成15)年11月14日第1刷発行
   2007(平成19)年8月6日第5刷発行
底本の親本:「山岳 二六の三」
   1931(昭和6)年12月
初出:「山岳 二六の三」
   1931(昭和6)年12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。

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