やかな手ぎわで結ばれた。先頭の彼氏は徐《おもむ》ろにステップを踏みはじめた。五十パーセントの臆病と、五十パーセントの勇気で包みながら。
俄然《がぜん》、彼氏の縋《すが》った岩角がもろくも砕けて吁《ああ》っと思う間もなく、足を踏みはずしてしまった。続いて彼女が必死の悲鳴を挙げた。彼の胴腹にも同時に強いショックが伝わった。危く踏み堪えて、満身の力を籠《こ》めてこれに抵抗したのであった。実に幸にして、彼の踏み堪えは利いて、すんでの事に失われようとした二人の生命は救われた。再び、引上げられた時彼女は、思わず感謝の叫びをあげながら、先刻グロテスクだと思った彼の手を堅く握り〆《し》めて、今更のように肩幅の広い、厳丈なこの山人の体を頼もしげに見詰めたのであります。めでたし、めでたし。
*
私は、与えられた「案内人風景」から脱線して、下らない登山風景を述べてしまった。
せめて、この案内者を、彼の家にまで送り届けて擱筆《かくひつ》しなければならない。
山からの彼の帰りを待ち兼ねていた彼の女房は、彼の顔を見ると、申訳なさそうな面色で告げた。
「おめさまの留守にな、この子の奴が縁側から
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