間《ま》を歩いた模様で、概略の山勢を察し得られたのは、不幸中の幸。
 遥か南々西に位する雄峰乗鞍岳に禦《あた》るのには、肩胛《けんこう》いと広き西穂高岳が、うんと突っ張っている、南方霞岳に対しては、南穂高の鋭峰、東北、常念岳や蝶ヶ岳を邀《むか》うには、屏風岩の連峰、北方の勁敵《けいてき》、槍ヶ岳や大天井《おおてんしょう》との相撲《すもう》には、北穂高東穂高の二峰がそれぞれ派せられている、何《いず》れも三千米突内外の同胞、自ら中堅となって四股《しこ》を踏み、群雄を睥睨《へいげい》しおる様《さま》は、丁度、横綱の土俵入を見るようだ。さはいえ、乗鞍や槍の二喬岳を除けば、皆前衛後衛となって、恭《うやうや》しく臣礼を取っているにすぎぬ。槍ヶ岳対穂高岳は、常陸山《ひたちやま》対梅ヶ谷というも、強《あなが》ち無理はなかろう、前者の傲然|屹《つ》っ立《た》てる、後者の裕容迫らざるところ、よく似ている。あわれ、日本アルプスの重鎮、多士済々の穂高には、さすがの槍も三舎を避けねばなるまい、彼は穂高に対し、僅かにこれと抗すべき一、二峰派しているも、大天井や鷲羽《わしば》に向う子分は、貧乏神以下、先ず概勢はこん
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