けて来る、恐ろしいほど荘厳だ。小屋の内に這入《はい》って見ると、薄暗い、片すみに、二升鍋が一個と碗《わん》が五つ六つ、これは上高地温泉で登山者のためとて、備品として置かれたもの、今後この小屋で休泊するものは、大いに便利だろう、何か適法を設け、各処の小屋の修理や食器等の備え付をしたいものだ。此処で残飯を平らげ、鞋の緒をしめ、落合の小屋「信濃、二ノ俣の小屋、嘉門次」「信濃、槍※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]《やりどう》(宛字)、類蔵」に向う。

    十五 落合ノ小屋

 六時半、赤沢ノ小屋を見舞う、此処は昨今の旱天《かんてん》続きで容易に水を得られぬから、宿泊出来ぬそうだ。七時二十分には、目ざす落合ノ小屋、処《ところ》は梓川と二ノ俣川との合流点、小屋というても、小丸太五、六本を組み合せ、小柴を両側にあてた一夜作りのもの、合羽でもないと雨露は凌《しの》げぬ、水や燃料は豊富だが三、四尺も増すと水攻にされる。こっちの山麓から、向側まで二十間とない峡間、殊に樹木は、よく繁っているので、強風は当らぬ。槍・常念・大天井に登臨する向《むき》のためには、至極便利の休泊処。



底本:「山の
前へ 次へ
全21ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鵜殿 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング