わ》しくなってきた。槍に登って余裕のある人は、中途高山植物の奇品を採《と》りながらこの峰に登るも面白かろう。大喰岳「信飛界、大喰岳、嘉門次」とは、群獣のこの附近に来て、食物をあさり喰《くら》うので、かくは名づけたのであると。
右手嶂壁の下には、数丁にわたる残雪、本年は焼岳の火山灰が、東北地方に降下したから、穂槍及び常念山塊の残雪は、例年に比し、甚《はなは》だ少ないとの事だ、よく見ると鼠黒い灰が一面にある。少々先きの嶮崖を下れば、梓川の本流と飛騨|高原《たかはら》川の支流、右俣との水源地で、大きな鞍部、大槍に用のない猟手らは、常に此処を通って、蒲田谷方面に往復するそうである。四、五間向うに、数羽の雛《ひな》とともに戯《たわむ》れている雷鳥、横合《よこあい》から不意に案内者が石を投じて、追躡《ついじょう》したが、命冥加《いのちみょうが》の彼らは、遂にあちこちの岩蔭にまぎれてしまう。此処が槍の直下だろうとて、荷物を委《す》てて行こうとすると、もう一つ小峰があるとの事、で早々|纏《まと》めてまた動き出す。途中、チョウノスケソウ、チングルマ、ツガザクラ、ジムカデ、タカネツメグサ、トウヤクリンド
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