かた》ばかりの床の間もあれば、座敷ともいえようが、ただ五、六枚の畳が置いてあるというだけで、障子もなければ襖《ふすま》もない。天井もない。のみならず、数十羽の鶏の塒《ねぐら》は、この部屋の一部を占領して高く吊られてある。
 五、六枚畳んで重ねられた蒲団の上には、角材をそのまま切って、短冊形の汚れた小蒲団を括《くく》りつけた枕が置かれてある。その後の柱には、この家不相応な、大きな新しい時計が、午後三時を指している。床の間には、恐れ多くも、両陛下の御肖像を並べて、その下に三十七年宣戦の詔勅が刷られてある。そして床の落し掛けから、ホヤの欠けた、すすけたランプが憐れっぽく下っている。
 主人夫婦に子供二人、その姉娘は六ツばかりになろう。この「ボコ」はその名を「よしえ」とよばれて、一方ならぬお茶ッピーだ。小さな火鉢に、榾火《ほたび》の燃き落しを運んで来る。「官員サンに何か出さねーとわるいぞよ――、小寒いに――、火でもくれないとわるいぞよ」という。洋服を着けた人は誰でも官員サンである。

      二十

 よしえのいう通り、この小寒いのに、少しばかりの消炭ではやりきれない。灰が起つので帽子を冠
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