があって、六林班から半日で皇海へ往復される。上州峠の上州側には六林班の鉄索運転工場がある。今は其処の伐採中で、八林班の方は既に植林済みとなって、人は入っていないとのことであった。思ったより楽に登れそうなので喜んだ。寝しなに雨戸の隙間からのぞくと灰色の鱗雲《うろこぐも》が空一面に瀰漫《びまん》して、生ぬるい風が吹いて来る。あまり面白くない天気だ。
 明《あ》くる十七日の朝六時四十分に出発した。空は曇って少し霞んでいる。原まで戻って尾根に登る道の入口を尋ね、畑の間を通り抜けて、山の側面をやや急に二百米も登ると尾根に出た。七時十分である。いい道だ、殊に尾根に出てからは一層よく、左右は唐松の植林である。靄が次第に深くなって附近の山がぼうと遠のいて来たと思うと雨がポツポツ落ちて来た。八時十分には千二百二十六米の三角点の下に着いた。このあたりは尾根が広く平で高原状を呈し、植林の道が縦横に通じている。もうこの附近から木の葉は皆落ちていた。小屋で二十分ほど休んで八時半に出発する。暫《しばら》く登って尾根に出ると右の方にも道が通じている。何気なくそれを辿って行くと、しだいに右に迂廻《うかい》して少しずつ
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