。拗《ねじ》けくねった木がその間に根を張り枝を拡げて、逆茂木《さかもぎ》にも似ているが、それがなければ到底《とて》も登れぬ場所がある。岩壁や木の根には諸所に氷柱《つらら》が下っていた。雨の名残りの雫《しずく》が凍ったものであろう。水がないので困っていた二人は、これで幾分渇をしのぐことを得た。最高点に登りついたのは四時十五分である。字サクナソリと書いた標木が立っている。ここは非常に眺望がよい、谷間はもう薄暗くなったが、連山は模糊《もこ》として、紫や紫紺の肌に夕ばえの色がはえている。それよりも美しかったのは入日に照らされた雲の色であった。自分らは暗くなるのを気遣いながらも、三十分ばかり遊んでしまった。
 鋸山を西に下ってまた上ると、字トンビ岩の杭ある峰の頂に出る。この山から国境山脈はぐっと南に曲るので、西に続く支脈にまぎれ込むことを心配したが、幸に切明けの跡を探り当てて、深い笹の中を迷いもせず下ることが出来た。もう全く暗い、二人で声をかけながら歩いても、ややもすれば互にそれてしまう。六時頃峠の上の鉄索の小屋についた。それに沿うて西に下ると峠の路に出る。十町ばかり下に電燈の火光が散点している
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