。六林班の鉄索運転所であろう。六時二十分そこにたどり着き、事務所に行って事情を話すと、主任の人が心配してくれて、泊れる小屋を探しに小使をやった。幸に今朝二人里へ行ったという小屋があって、そこへ泊ることになった。事務所の浴室へ案内されて湯に入った。その湯の豊富で綺麗なのには全く驚いた。蒸気機関があり川があるから、湯でも水でも栓をひねればすぐ浴槽にあふれるほど湛える。これだけは実に贅沢《ぜいたく》だと思った。
二十日の朝はきわめて快晴で、外は霜が雪のように白い。硝子《ガラス》窓を透していながら左は浅間から右は谷川岳附近まで望まれる。苗場も見えた。ことに仙ノ倉が立派であった。昨日降った新雪が折からさし登る朝日の光に燃えて、薔薇色《ばらいろ》に輝いた。午前八時半に小屋を立ち、三十分で峠に達し、雪の連山に最後の一瞥《いちべつ》を与えて、東に向って銀山平への道を下りはじめた。鋸山方面から流れ出る沢には滝が多い。庚申川に沿うた紅葉は、さほど盛りを過ぎてもいなかった。谷川の趣《おもむき》も捨てたものではない。十二時銀山平、午後一時二十分原向。それから二時二十六分の汽車に乗り、五時相老で東武線に乗換え
前へ
次へ
全26ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木暮 理太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング