根利山続き袈裟丸山の連脈が四つの峰頭をもたげ、千九百五十七米の三角点の櫓まで肉眼に映ずる。その右には赤城の黒檜《くろび》山が鈍いが著しく目に立つ金字形に聳え、右に曳いた斜線の上に鈴ヶ岳がぽつんと鮫《さめ》の歯をたてる。赤城と根利山との間には、小川山から大洞山に至る秩父の主山脈が、大海のはての蒼波かと怪しまれ、黒檜の上には白峰三山、赤石、悪沢等南アルプスの大立物が遥に雪の姿を輝し、黒檜と鈴ヶ岳との間に朝与、駒、鋸の諸山が押し黙って控えている。西から西北へかけて榛名《はるな》、妙義、浅間、矢筈(浅間隠)四阿の諸山は鮮かであるが、四阿山から右は嵐もようの雲が立ち騒いで、近い武尊山も前武尊の外は、頂上が隠れている。燧《ひうち》岳は既に雲中に没してしまったが、三ヶ峰、笠、錫の諸峰及日光火山群や、渡良瀬川対岸の夕日ヶ岳、地蔵岳、横根山などは、雲間を洩る西日を浴びて半面が明かに見渡された。奥白根はかなり雪が白く、峰頭をかすめて雲が去来する毎に、研《と》ぎ澄した鏡のように光る雪面が曇ったり輝いたりする。庚申山の如きはいわゆる俯してその髻《もとどり》をとるべしという形だ。庚申講の先達がこの山を開いて奥院
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