とともに鉄索が通じている。その方面の山はことごとく伐り払われて、今不動沢が正に伐木の最中である。下りはかなり急であった。九時五十分不動沢着。沢の両岸には半永久的の小屋が散在している。小屋の前で働いていた老人にまた皇海のことを聞いてみた。その話によると、皇海山の西の鞍部から頂上へかけて切明けがある。そして平滝からその鞍部への道と通じているから其処《そこ》へ出て登れば楽である。まだ登っては見ぬが頂上には剣が奉納してあると聞いたと教えてくれた。地図と対照して実際の地形を視《み》ると、皇海山の西方から発源する不動沢の左股を遡《さかのぼ》るのが楽でもあり、かつ都合もよいように思われるので、それを登ることとして沢を渡り、道に沿うて最奥の小屋まで行き右に折れて林中を進むと左から来るかなりの沢に出た。十時半である。右下にもかなりの沢が流れている。それは右股でこれが左股に相違ないと断定して、十分ばかり休んでから沢を登り初めた。割合に歩きよい沢だ、十分も進むと河床は、縦横に裂目が入って柱状を呈している玄武岩らしき一枚岩となって、その上を水が瀉下するさまがやや奇観であった。十時五十五分、左から沢が来た。十一
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