。ある場所では明瞭に路が認められ、またある場所では焚火の跡などもあった。峠の道もさして遠くはないはずと急ぎに急いだが、一時間以上歩いてもまだそれらしきものにぶつからない。足もとはしだいに暗くなってたどたどしくなって来た。先へ行った藤島君が明るい所へ出ましたという。自分らは突然暗い黒木立の中から明るみへ抛《ほう》り出されたように感じた。木を伐《き》り払った跡である。日当りがよいので笹が人丈より高く延びている。のみならずその中には枯枝が縦横に交錯しているので明るくなって助かったと思ったのもつかの間、歩行は以前よりも遥に困難となった。その代りに下り一方である。ここは笹が深く燃料も豊富であるから、水はないが、携帯の食料で一夜を明すには相当の場所であった。しかし峠も近い事と信じていたので、なおも下りを続けてついに鞍部に達した。けれども峠の道はない。もしあっても暗くて探し出すのはむずかしい。午後三時頃から小歇《こやみ》となっていた雨がまた降り出して、風さえも加って来た。五時半頃である。前方右手の谷間に火の光が明るく雨や霧ににじんで見える。大方上州峠の途中にあるというお助小屋か、さもなくば鉄索運転の
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