て向う岸に移り、少し行くとまた小沢がある。それを過ぎてから山のひらを左斜に登ろうと試みたが、笹が深いので歩けない。それで沢を上ることに決めて、引返して小沢を登り始めた。百五十米も登ったろうと思う頃、沢が尽きて一の尾根に出た。自分らはこの時根利山の最高点をきわめることは断念して、国境の尾根へ出たならば上州峠の道に下って砥沢へ行こうと相談一決したので、この尾根を国境山脈と想定して、右の方へ下りはじめた。しかるに余り下り方が激しいので疑わしくなり、とにかくもう少し高い方へ登って見ることにして、かなり急峻な斜面を百米も登ると頂上らしい所に出た。潮のようにさしひきする霧の絶間から眺めると、左の方に尾根らしいものが続いている。これこそ国境山脈に相違あるまいと断定して、右即ち北に向って尾根上を辿り出した。何しろ二人とも磁石を持っていなかったので、さっぱり方角は分らず、今までの道筋を頭の中に描いて、それによって方向を判断するより外に方法はなかった。最早《もはや》暮れるに間もあるまいと思うが、時計を出して見る間も惜しく足にまかせて急いだ。尾根の上は黒木が繁っているので笹が少く、大《おおい》に歩きよかった
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