番小屋であろうと思う。遠くもないようであるが、到底そこまでは行かれない。一層のこと今夜はこのまま夜明しをしようではないかと無造作に話がまとまって、右手の落葉松《からまつ》を植林した斜面を少し下り、下草の多そうな処へ寄り懸るように腰を据えて、藤島君は防水マントを被り、自分は木の幹や枝でばりばりに裂けた蝙蝠傘《こうもりがさ》を翳《かざ》して、全く徹夜の準備が出来た。あとは夜の明けるのを待つばかりだ。その夜明けまでの長さ。
とうとう長い夜も明けた。見ると妙な場所に陣取っていたものだ。今一間も下ると二人楽に寝られるいい平があったのに。足もとの明るくなると同時に歩き出したが、気候も温く下着も充分に着てはいたものの、十一月の雨中に一夜を立ちつくしたのであるから、体がぎこちなく手足が敏活に動かぬ。尾根は登りとなって深い笹が足にからまり、横から突風に襲われると、二人ともややもすれば吹き倒されそうで容易に足が進まない。それで風下の右手の谷へ下りて、昨夜火光の見えた方向へ辿り行くことにし、そろそろ斜面を下った。午前八時である。間もなく小さい沢に出てそれを下ると、鞍部から四十分を費して本流との合流点に達し
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