の四名を引率して登山の途に就き、同日は室堂《むろどう》より別山を超《こ》え、別山の北麓で渓を距《へだた》る一里半ばかりの劍沢を称する処《ところ》で幕営し、翌十三日午前四時同地を出発しましたが、此処《ここ》は別山と劍山との中間地で黒部の上流へ落合う渓流が幅三|米突《メートル》ばかり、深さ六、七尺もありました、なおその地方は落葉松《からまつ》等の周囲一丈ばかりもある巨樹、鬱蒼として居ますが幸《さいわい》に雪があったから渡《わ》たれたものの、雪がなかったら危険地でとても渡れないだろうと思います、それより半里ばかり東南の谷間を下り、それから登山しましたが、積雪の消えない非常な急坂がありまして一里ばかりの雪道を約五時間も費やしました、その雪を通過すると劍山の支脈で黒部川の方向に走れる母指との間のような処に出ました、もっともこの積雪の上を徒渉《としょう》するのにどうしても滑りますから鉄製の爪あるカンジキを穿《は》いて登るのであります。
この積雪地よりは草木を見ず、立山の権現堂《ごんげんどう》より峰伝えに別山に赴く山路の如く一面に花崗片麻岩《かこうへんまがん》にてガサガサ岩の断崖絶壁削るが如く一
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