不可能であると聞いた、また二十町ばかり行くと大津又川が東から只見川に這入《はい》る、ここから左折して大津又川を溯《さかのぼ》って行くと、その日に会津の檜枝岐に達することが出来て、昨年に自分がその路を通行したのであった、しかし檜枝岐から郵便物を投函すると、九日以上の日数を費さないと銀山平へ到着しないそうである、なお只見川に沿うて上ると灰瀑布がある、只見川の本流が瀑布をなしていて、午後になって日光が瀑布を射るようになると、瀑布の下の深淵から鱒魚が瀑布に向って飛び上る、それが容易に瀑布の上に登ることが出来ない、無数の鱒魚が滔々《とうとう》として物凄《ものすご》く山谷に響きわたって、倒《さか》さに銀河を崩すに似ている飛泉に、碧澗から白刃《はくじん》を擲《なげう》つように溌溂《はつらつ》として躍り狂うのであるから、鱒魚の豊富な年ほどそれだけ一層の壮観であるそうである、鱒魚はかように瀑布と悪戦苦闘を続けて労《つか》れに憊《つか》れて、到底瀑布を登ることが出来ぬと断念して、他に上るべき水路を求めている、人間の猿智慧はこんな山間でも悪用されていて、瀑布の下から瀑布の上に向うて迂回した水勢の緩慢《かんま
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