それでも間違だらけで書きとられ、その次の頁から、原語だけは諦めたと見えて空白になっていた。繰り拡げている中に久能は羞かしさや、屈辱や、恐怖が湧いて来た。大垣で高利貸をしている青江の父や、玄人上りの、時々、株を張りに堂島に出かけていくという継母や、一眼で淫蕩を想像させる青江が自分の血に交ってくる予感! その押えきれない恐怖心で久能は青江を突き退け、僕のノートを汚さないで貰いたいなと震えた声音でいい、それだけでは不安を押えることも、怒りを相手に伝えることも出来ないという半ばは意識的な遣方で、いきなりばりばりと十二頁のノートを引きさいて、下へ持ってって下さいと青江の前に突き出すと、青江はかすかな冷笑で久能を見返し、なぜいけないの、というので、彼は、こんな字汚なくて読めない、と答え、久能さんの字だって綺麗な方じゃないわ、とやり返して来る青江に、僕の字はどんなに汚なくったって僕には読める、第一女の書いたノートを持って学校に行けるもんかと、突っぱなすと、青江は机の前に無表情に坐ったまま、頬に落ちて来る涙を頑くなに拭きもしないでいた。そうして向き合っていると、くやしいためなのか、圧迫されるためなのか
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