動き、いつか、母のように想って握った手で手をとられると、頼りたさにうずき、青江の持って来た花に唇を触れた。そこへ三ツ木が這入って来、青江を厳粛そうに手招ぎした。
久能は自問していた。自分は真実を知ろうとしているのだろうか、それとも真実をこわしているのだろうか、何故、この様なからくりの中に青江をひき入れたのだろうか? 死や真実を徒らにもてあそんでいる自分は何という浅間しい人間だろう? 何も信じないでいられる世界はないのだろうか? そして久能は自分がこうするのは、真底からは青江を愛し、信じたがっているからなのだと思った。
青江が帰って来た。涙が乾いて視線がひどく遠い処に散っていた。笑い出しそうでもあったその表情は発狂の前徴に似ているかも知れなかった。久能は、帰れ、と青江にいいたい誘惑を感じていた。長い時が流れた。とうとう久能は、僕を安心させてくれ、一言、僕に知らしてください、と青江に説くようにいい始めた。それは思いがけない程青江にとって劇しい責苦であるらしかった。彼女は電気に打たれたようにくずおれると、ベットに倒れかかった。‥‥やはりそうだったのか‥‥久能は重たい石をおろした、或は身体
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