きて開けてくれ、そうそうと思い出したように、久能さん、お手紙、青《ああ》ちゃんが預ってるわ、と少し皮肉らしくいったので、突嗟に久能は異常なものを感じた。今まで彼に来た手紙がそんな取扱をうけたことはなかった。すぐ階段を上らずに、まだ起きているのか、淡く灯のついている青江の部屋の障子を細目に開くと、仰向けの青江の白い寝顔が見えた。ちょっと、と呼びかけてみると、表情は動かなかったが、硬ばった頬と唇には明らかに意識が動いていて、眼が次第に開いて来、久能を上眼に盗み見ると、頸を縮めて夜具の中にかくれていった。手紙? と愛想なくせき立てると、青江は初めて眼ざめたように大きく眼を開いて、久能を睨みあげ、知らない、手紙なんか! あっちへいってよ、というので、久能は自分の過失を責められたみたいに、良心が狼狽して来た。翌朝久能が眼ざめると、無惨に開封された黄色い封筒が枕許に放り出してあった。開くと柔らかな芳香が流れ出して、達筆にかかれた青文字が微妙なデッサンに見えた。婦人から手紙を貰ったことのない久能は、陶酔的に胸が熱くなり、その中の事務的な文句が最初は魔の様に踊り出して、相手から余程の好意を寄せられたか
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