久能に、自分が第一の責任者かのようにしきりに詫びていたが、久能はじっと濁った瞳で天井をみつめていた。すると三ツ木は、久能はこのまま死ぬのじゃないかと気懸りになり、久能、誰かに会いたくないか? お母さんを呼ぼうか? 兄さんに来てもらう? というと、久能は頭を振った。三ツ木は青江の事が舌の先にまで出て来ていながら、久能にそれだけは惨酷なようで訊けなかった。だが久能も青江を思っていた。会いたくはあった。久能達は遺書を書き、ガスを部屋に放出すると、久能に寄ってじっと眼をつむっている青江に較べて、自然にがたがたと慄え出すのをこらえて、久能は息苦しくなった声で、本当をいってくれと哀願し出すと、青江は石のように黙って、かすかに細眼を開いただけだった。久能は、青江め、俺の負けるのを待っているのだな、恐ろしい事だ、この恐ろしい青江の魅力がもう俺のものでなくなって了うのだと思い出すと、自分の敗色が明らかになり、苦しいと叫ぼうとする声が出なくなりかけてい、突然狂気になってガス栓に走り寄ろうとする足が動かなかった‥‥それ以来久能は青江に会わなかった。思い屈して一度訪ねては行ったが大垣に帰ったと聞いて帰って来た
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