い経過をとらなかったので、久能はその頃、治療費に窮して、三ツ木に紹介された医学生から薬をもらっていると、その不注意で余り薬が劇しすぎたため、排尿が困難になり、文字通り部屋中七転八倒して苦しんでいると、膀胱が破裂し、危篤に陥入った。久能は勿論、死を覚悟していた。若い精神の本能的な不透明さが遂に此処まで来たのを知って、すべてを何か知らぬが、大きなものの手に委ねつくして、あわてたり、わめいたりしようとしなかった。勿論、久能にしても、これからまだまだなし遂げたい仕事もあり、老母も気がかりであったが、今になっては戦い疲れていて、自分の死を比較的冷やかに待っていた。病室には三ツ木が蒼白になって付きそっていた。彼はどういう縁故からか、ある銀行に入りこみ、算盤も出来ないのでそこでは接待掛をやり、一朝、事ある時の警衛の役目も持ち、普断は箒をかかえて掃除役をしているのであったが、久能のいる病院に駈けつけて来て、彼の黒ずんで、全く弾力のない顔をみると、大変なことになったなあ、俺があんな男を紹介しなかったら、ちぇっと叫び、おい、久能、しっかりしてくれ、絶望じゃないぞ、手術の結果がいいそうだからと少しも答えない
前へ 次へ
全33ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊田 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング