今は一心に追っているなと感じ、殊更に冷淡に構え、虚勢を張っていると、着換えに押入を開いた青江は皮肉るように久能を見くだして、あなた、何かさがしたんじゃない? というので、久能はむっとして、捜されること知ってるあなたが、見付けられて悪いもの、何残して置くものかと怒ると、青江は殺倒する様に久能にしがみついて来、未だうたぐってるの? あたしがそんなに信じられない? ね、あたし信じられるためだったらどんなことでもするわ、そんな事より早く丈夫になって明るい顔してくださらない? と真剣に頼むので、久能は、何でもするね、するね、それじゃ本当のこといってくれ! 僕はどんな事いわれたって本当のことなら我慢するから、というと、青江はないことだけはいえないわ、そりあ無理よ、と髪をかき出した。
 ある夜久能は、死にたい、青江にも死んで呉れといった。青江の眼は動かなかった。僕はこんな信じ切れない状態で生きていたくなくなっている。自分の果したい仕事も開けて来ないし、この世に信じられるものは一つもない、青江が一緒に死んでくれて、彼女だけは信じさせてくれと、久能は青江の両手を抱いていった。そう? うん、判ったわ、と青
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