了いたいと記された、青江のように文章の拙ない訴えには、奇妙な切実さがしみ出ていて久能の心を打たずにいなかった。併しこの手紙を出さなかった裡には何か青江の良心に影があるのだと復疑い久能が手紙を束ねかけるとばらばらと四、五枚の便箋が落ちたので、取りあげてみると、金線で縁どった立派なもので××ホテルのしるしがあった。久能は何の気もなく、凝ったものだなと思っただけで、そのままトランクに投げ込み、それから、帽子の函や、茶箪笥の抽出しや、雑誌の間や、下駄箱まで血眼にひっかきまわし、万一青江の不純を裏書きするようなものが出て来たらという怖ろしさに止めよう、止めようと制しながら、うつろな眼をすえ、顫える手で、夜具までも引き出して調べずにいられなかった。もう手をつけるものがなくなり、火鉢の傍に帰ってうずくまると息がふうふうと切れ、何一つ青江を責めるもののないのに却って不安になり、どうしても青江に真実をいわさずには置かない決心が久能を慄え出させていた。
すると漸く青江が帰って来た。随分待って? きっと今夜はお出でと思ってこれでも急いで帰って来たのよ、お土産もあるわと青江がうれしげに寄って来ても、久能は振
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