すと、涙の流れ出ないのが寂しく、まさかに母は自分があのような病院に通い、こんな女の部屋にみじめな姿でいるとは想像していないだろう。母の期待の崩れていくのが眼に見え、急いで母の姿を追いやると、今度は頼子が現われ女との間に距離を置かない惨めさをよく知っている彼女から嗤われているのが感じられ、又、その後には得態の知れぬ顔の群が久能を責めて来るのに耐えていると、ふいに久能はぞっとして立ちあがり、青江の持物を調べようと思付いた。彼は先ず押入のなかに頭を突込んで黒いトランクを引き出した。古いハンドバックや、手袋や、ビイズの財布や、香料の空瓶などと一緒に出て来た一束の手紙と写真帖を、これだと丹念に調べると、写真帖は前に見た通り、青江の小さい頃からのスナップばかりであったが只一つ最後に久能の学生服姿の八ツ切が新らたに張られ、日附が認められていて、その日附は久能にもすぐに思い当った。青江はやはり俺を愛しているのだ、とそれから手紙を読み始めたが、その中にも青江に味方する手紙があったきりだった。それは青江から女の友達にあてて書かれたもので、その封を切ると、青江が久能から疑われて苦しんでいる様が説かれ、死んで
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