ざまざと困惑を露わして、とんだ処で会いましたな、と思い切り悪く苦笑しくいた。久能は菊崎のてれているのを幾分滑稽に感じて、君がね? と、場所が場所だけにお互に痛くもあり、やはりやられているのだなという、軽蔑や、同情や、安心で、ではまたと、久能は上に菊崎は下に別れた。菊崎は勉強家で通っていたし卒業間際にもうある私立大学の教授の椅子を贏得た位なので、そんな処で出会ったのは全く意外だったが、それからも久能は度々その皮膚科の待合室で彼と顔を合せた。学生時代には余り親しんでもいなかったが、菊崎は前より無口でなくなっていて、僕は人生観が変りましたね、僕はもう家族からも友人からも無類の堅人と思い込まれているので、遣切れない程不自由な思をし、表面と裏面を演じわけるのに苦労してるんです、実に不快ですね、それに実際、この病気は陰欝ですね、お袋など、お前この頃心配があるのかねときくんですよ、びっくりしますね、それに一番困ったことには近々に結婚しなくちゃならない破目に陥っているんですよ、などと話して、久能さんは一体どこに出掛けたんですかと聞きはじめた。久能はその瞬間、苦しげに頬をゆがめて、僕はちっとも遊びなどし
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