気でいる中に、青江が、僕の許しも受けず清書したのだと弁解しても、三ツ木は愈々平たい頤を久能の眼前一ぱいに拡げて、嫉ましそうな眼をつりあげてしばたたき、もう君はあの娘を認識しているんですね、と止めを刺したようにいって笑い出した。久能は苦い虫を噛んだように黙っていると、三ツ木は久能が承認したのだと信じて、青江の肌は妙らしいものだと説明しはじめ、俺にだって、ああいう助手がいたら義理にも傑作を書くなあといった挙句、また球を撞こうと誘い出した。久能は不快さの中にも三ツ木のキューを握っている恰好の憑かれた三昧境を思い浮べて、この男が文学をやるのは一体どういう心算なのだろうと不思議にも、おかしくもなったが、こういう同人のいる雑誌では長続きは勿論、いい結果は得られないなと考え、三ツ木と表へとび出した時、菊崎に出遇ったので、久能は彼に無形なものを追っている迂濶さを嗤われているようで不快だった。併し三ツ木は文科にもああいう莫迦がいるんでやりきれないよ、文学の何たるやも知らない奴だと罵っていた。
その夜、眠りからふと眼を開くと、久能は体が未知な衝動で慄えるのを感じた。彼は球を撞いてから、隅田川の向うに行く
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