前《たるまへ》山の噴火が見えた。眞ッ直ぐに白い烟が立つてゐるかと思へば、直ぐまたその柱が倒れ崩れて、雲と見分けが附かなくなつた。
あれほど活氣ある火力を根としながらも、空天につッ立つた烟柱は周圍の壓迫に負けて倒れるのであるが、僕はその時地腹に隱れた火力を想像して見た。
がうッと一聲、物凄い響が僕のあたまの中でしたかと思ふと、その火山の大爆發當時のありさまが瞑目のうちに浮んだ。その時、西風が吹いてゐたのであらう、日高の方面へ向つてその噴出した熔岩の灰が雲と發散して、御空も暗くなるほどに廣がつた。
その結果が今僕の目を開いて見る火山灰地である。數百年もしくは數千年以前に出來た地層がまざまざ殘つてゐて、膽振から日高の一半に渡つて、地下六七寸乃至一尺のところに、五寸乃至一尺の火山灰層となつて、その白い線が土地の高低を切り開いた道路の左右に、郵便列車の中腹の赤筋の如く、くッきりと通つてゐる。
底本:「現代日本紀行文学全集 北日本編」ほるぷ出版
1976(昭和51)年8月1日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
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