の女をつれてやって来た。吉弥は僕の方もまた出来なくなるかと疑って、浅草へ電報を打ったので、今度はお袋が独りでやって来たのだ。つれた女は芸者の候補者だ。
 お君が一座の人々をぎろぎろ見くらべているところで、お袋はお貞と吉弥とから事情を聴き、また僕の妻にも紹介された。妻もまたお袋にその思ったことや、将来の吉弥に対する注文やを述べたり、聴き糺《ただ》したりした。期せずして真面目な、堅苦しい会合となった。お袋は不安の状態を愛想笑いに隠していた。
 その間に、吉弥はどこかへ出て行った。あちらこちらで借り倒してある借金を払いに行ったのである。
 主人がその代りに会合に加わって、
「もう、何とか返事がありそうなものですが――」
「そうです、ねえ」と、僕の妻は最終の責任を感じて、異境の空に独りぼっちの寂しさをおぼえた。僕は、出発の当時、井筒屋の主人に、すぐ、僕が出直して来なければ、電報で送金すると言っておいたのだ。
 先刻から、正ちゃんもいなくなっていたが、それがうちへ駆けつけて来て、
「きイちゃんが、今、方々の払いをしておる」と、注進した。
「じゃア、電報がわせで来たんでしょう?」と、僕の妻は思わず
前へ 次へ
全119ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング