へ来ているの?」
「いいえ、去年の九月に」
「はやるの?」
「ええ、どこででもきイちゃんきイちゃんて言ってくれてよ」
「そう」と、あざ笑って、「はやりッ子だ、ねえ。――いくつ?」
「二十七」僕はこれを聴いて、吉弥が割合いに正直に出ていると思った。
「学校ははいったの?」
「いいえ」
「新聞は読めて?」
「仮名をひろって読みます、わ」
「それで役者になれるの?」
「そりゃアどうだか分りませんが、朋輩《ほうばい》同志で舞台へ出たことはあるのよ」
二人はこんな問答もあった。
僕は、帰京したら、ひょッとすると再び来ないで済ませるかも知れないと思ったから、持って来た書籍のうち、最も入用があるのだけを取り出して、風呂敷包みの手荷物を拵えた。
遅くなるから、遅くなるからと、たびたび催促はされたが、何だか気が進まないので、まアいい、まアいいと時間を延ばし、――昼飯を過ぎ、――また晩飯を喫してから、――出発した。その日あたりからして、吉弥へ口のかかって来ることがなくなって来たのだ。狭いところだから、すぐ評判になったのであろう。妻を海岸へ案内しようと思ったが、それも吉弥が引き受けたのでまかしてしまっ
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