き倒されかけた。
その上の男の子が、どこからか、「馬鹿馬鹿しいわい」という言葉をおぼえて来て、そのころ、しきりにそれを繰り返していたそうだが、妻は、それが今回のことの前兆であったと、御幣《ごへい》をかついでいた。それももっともだというのは、僕が東京を出発する以前に、ようやく出版が出来た「デカダン論」のために、僕の生活費の一部を供する英語教師の職をやめられかかっていたのだ。
父からは厳格ないましめを書いてよこした。すぐさま帰って来いと言うので、僕の最後の手紙はそれと行き違いになったと見え、今度は妻が、父と相談の上、本人で出て来た。
僕が、あたまが重いので、散歩でもしようと玄関を出ると、向うから、車の上に乳飲《ちの》み児《ご》を抱いて妻がやって来た。顔の痩《や》せが目に立って、色が真ッ青だ。僕は、これまでのことが一時に胸に浮んで、ぎょッとせざるを得なかった。
「馬鹿ッ!――馬鹿野郎!」車を下りる妻の権幕は非常なものであった。僕が妻からこんな下劣な侮辱の言を聴くのは、これが初めてであった。
「………」よッぽどのぼせているのだろうから、荒立ててはよくないと思って、僕はおだやかに二階へつれ
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