逆上して、あたまが燃え出すように熱して来た。
 僕は、数丈のうわばみがぺろぺろ赤い舌を出し、この家のうちを狙《ねら》って巻きつくかのような思いをもって、裏手へまわった。
 裏手は田圃《たんぼ》である。ずッと遠くまで並び立った稲の穂は、風に靡《なび》いてきらきら光っている。僕は涼風《すずかぜ》のごとく軽くなり、月光のごとく形なく、里見亭の裏二階へ忍んで行きたかった。しかし、板壁に映った自分の黒い影が、どうも、邪魔になってたまらない。
 その影を取り去ってしまおうとするかのように、僕はこわごわ一まわりして、また街道へ出た。
 もとの道を自分の家の方へ歩んで行くと、暗いところがあったり、明るいところがあったり、ランプのあかりがさしたり、電燈の光が照らしたり――その明暗|幽照《ゆうしょう》にまでも道のでこぼこが出来て――ちらつく眼鏡越《めがねご》しの近眼の目さきや、あぶなッかしい足もとから、全く別な世界が開らけた。
 戸々《ここ》に立ち働いている黒い影は地獄の兵卒のごとく、――戸々の店さきに一様に黒く並んでるかな物、荒物、野菜などは鬼の持ち物、喰い物のごとく、――僕はいつの間に墓場、黄泉《よみ
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