の時ア私がどうともして拵《こさ》えますから、御安心なさい」と附け加えた。
 僕はなるようになれという気であったのだ。
 お袋は、それから、なお世間話を初める、その間々にも、僕をおだてる言葉を絶たないと同時に、自分の自慢話しがあり、金はたまらないが身に絹物をはなさないとか、作者の誰れ彼れ(その芝居ものと僕が同一に見られるのをすこぶる遺憾に思ったが)はちょくちょく遊びに来るとか、商売がらでもあるが国府津を初め、日光、静岡、前橋などへも旅行したことがあるとかしゃべった。そのうち解けたような、また一物《いちもつ》あるような腹がまえと、しゃべるたびごとに歪《ゆが》む口つきとが、僕にはどうも気になって、吉弥はあんな母親の拵《こさ》えた子かと、またまた厭気がさした。

     一二

 もう、ゆう飯時だからと思って、僕は家を出《い》で、井筒屋のかど口からちょっと吉弥の両親に声をかけておいて、一足さきへうなぎ屋へ行った。うなぎ屋は筋向うで、時々行ったこともあるし、またそこのかみさんがお世辞者だから、僕は遠慮しなかった。
「おかみさん」と、はいって行って、「きょうはお客が二人あるから、ね」
「あの、先
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