貞と相対していた。
「まア、吉弥さんも結構です、身受けをされたら」と、僕が煙草の煙を吹くと、
「そうだろうとは思っておったけれど」と、お貞は長煙管《ながぎせる》を強くはたきながら、「あいつもよッぽど馬鹿です。なけなしの金を工面して、吉弥を受け出したところで、国府津に落ちついておる女じゃなし、よしまた置いとこうとしたところで、あいつのかみさんが承知致しません。そんな金があるなら、まずうちの借金を返すがええ。――先生、そうではござりませんか?」
「そりゃア、叔母さんの言うのももっともです、しかし、まア、男が惚《ほ》れ込んだ以上は、そうしてやりたくなるんでしょうから――」
「吉弥も馬鹿です。男にはのろいし、金使いにはしまりがない。あちらに十銭、こちらに一円、うちで渡す物はどうするのか、方々からいつもその尻がうちへまわって来ます」
「帰るものは帰るがええ、さ」そばから、お君がくやしそうに口を出した。
「馬鹿な子ほど可愛いものだと言うけれど、ほんとうにまたあのお袋が可愛がっておるのでござります」お貞は僕にさも憎々しそうに言った。「あんな者でも、おってくれれば事がすんで行くけれど、おらなくなれば、
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