をして居るのであるから、他に向つて恐るゝといふことはない,自生自發、たとへば、かの棒振り[#入力者注(13)]がどろ水の中にぴんぴこ跳ねまはつて、その位置を轉じて居る通り、外面から見ると、嬉しさうで、樂しさうで、何の苦もない樣である。然し、これは、スピノーザの所謂自由、乃ち、内部から來る必然[#「内部から來る必然」に傍点]であるだけに、若しうツかりして居ると、却つて非常に意外な驚愕と恐怖とが來ないでもない。たとへば、一刹那の奮勵を怠つた爲めに、天女となるべきものが長い蛇となつたり、また、暗黒の境に這入ると思つたのが、急に光明界の星となつたりする時を云ふのである。これに類したことは、僕等が日々の經驗にもあることである。
 メーテルリンクは遺傳と運命とを云つたが、この兩者は、流轉といふ不可思議な黒水の流れ[#「流轉といふ不可思議な黒水の流れ」に白三角傍点]に潜んで居るもので――眠つて居た心靈が、どこか遠方の森かげで、ほら穴の中に目が覺めて、その顏を洗ふ時、幽玄な曉の光に初めてそれに氣が附くのである。その心靈とは外でもない、僕等である。それで、また、僕等の立ち塲はたゞ一刹那にあるので、その刹
前へ 次へ
全161ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング