ら借りた書の作者が確かエメルソンとあつたと思ひ出して、それからエメルソンを讀み出したのである。一日掛つて、たツた一節位が關の山――その苦心の度は、今日、僕が教へたりする學生の樂な勉強とは違つて居た。
 その頃から、僕の思想上に大變化が起つた[#「その頃から、僕の思想上に大變化が起つた」に傍点]――尤もこれは、エメルソンを讀むのは危嶮だといふ宗教家輩から云へば、渠の影響が覿面《てきめん》[#入力者注(5)]に來たのだと嘲るだらうが――早くからたゝき込まれて居た、耶蘇教の神が分らなくなつて、之を棄てゝしまつたし、また自分の愛して居た少女が理想のものでなかつたり、一親友が急に死んだりしたので、精神は非常に錯亂して來た。それに、家の關係上、文學に少しでも手を出すなら、學校生活は續けられなかつたので、某校で理財科を終つてから、政治科をやらうと思つたのを斷念して、仙臺へ行つた。政治家になりたいなどいふ考へは微塵もなくなつて、それからといふものは、專ら詩的修養をするのが自分の生命になつた[#「それからといふものは、專ら詩的修養をするのが自分の生命になつた」に傍点]が、その時は毎週の自修科目を時間に割
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