十四と、同調の他律と同じ位なのが八五調の四四二三の十九で、六五調の三三二三が十三と、五六調の二三四二が十とは注意すべきものである。殊に七五調の二三二三二並に九音調の二三四が、女房役に多くツて傾城に少く、また、五五調の二三三二と三二三二、並に五六調の二三四二が傾城に多くツて女房役に少いのや、更らにまた七七調の四三四三並に八六調の四四四二が、女房役に少くツて傾城に多いばかりでなく、これがまた男子には最も多い現出の一つであるのは、最も注意すべきものである。また、同じ七五調でも、四三二三は女房役に非常な割合で出て來るし、四三三二が傾城役に多いし、惡形には三四二三が多いし、男子役には以上の三種が大抵平均して出て來る。
序だから、時代に從つて格調の變遷した跡[#「時代に從つて格調の變遷した跡」に白三角傍点]を百分算を以つて尋ねて見ると、五七調[#「五七調」に傍点]は、最古より萬葉時代までに四割六分であるのが、古今集以後に至つて急に八分に※[#「※」は「減」の「さんずい」の部分が「にすい」、読みは「げん」、362−49]じ、中世歌曲に六分、近古時代以後は一分以下である。之に反して、七五調[#「七五調」に傍点]は、萬葉時代までが一分半であつたのに、古今以後に二割四分、近古時代に二割九分、近世唄ひ物に三割四分と増して來て居る。七七調[#「七七調」に傍点]は古今集以後の歌に最も多くツて、三割一分ある。十音調[#「十音調」に傍点]は近世の唄ひ物に最も多くツて、一割二分ある。八五調[#「八五調」に傍点]は、萬葉集などには全くなかつたのが、子供唄には一割七分ある。また淨瑠璃は最も人情の變化を現はすものであるから、諸種の格調が働いて居る[#「また淨瑠璃は」〜「働いて居る」に傍点]ので、最も多い七五調[#「七五調」に傍点]でも一割八分しかない代りに、十音調も八分、七六調[#「七六調」に傍点]も七分、八五調と六五調[#「六五調」に傍点]も六分、九音調も五分、七七調と萬葉集にはなかつた八六調[#「八六調」に傍点]も四分半ある。萬葉集には七分あつて、その後殆どなかつた五六調[#「五六調」に傍点]も三分ある。萬葉以來微かに隱見して來た六六調[#「六六調」に傍点]も三分半ある。一方から見ると、かう澤山の格調が百分中に現はれるのは、散文になつて來た證據ではないかといふ人もあらうが、それは時代の進歩につれて、人情が段々細微になつて行くのを合點しないからで、種々の情緒がそれ/″\適切な表情法を發見して來たことを知らなければならない。人間の動作にさへリズムがあることは、精神物理學者の研究して居る問題である[#「人間の動作にさへ」〜「問題である」に傍点],まして、悲痛熱烈の靈感を傳へる悲劇が、音律の整つて居ないやうでは、それこそ再び音樂以下の藝術だと云ふ論者に好辭柄を與へることになるだらう[#「まして」〜「なるだらう」に白丸傍点]。立派に散文詩と稱するものでさへ、之を讀んで見ると、そのうちに一種云ひ難い律があるのを見ても、僕等はこの點に非常な工風を要するのである。今日の舊俳優が不用意、不整頓の七五調になづむのも善くないが、新俳優の樣に、亂雜な用語に滿足して、律語を用ゐ驍セけの奮發と勇氣とのないのは、また誡めてやらなければならない[#「今日の舊俳優が不用意」〜「やらなければならない」に傍点]。
音律の研究は更らに進んで廣くやつて見なければ、人物の種類と作品の性質とに對して、その一定の、または種々の、または、散文的の律語を用ゐる標凖を明確に斷定することは出來ない。然し、人間の動作に律があるから、舞臺に現はれる俳優には舞踊の素養を要すると同じく、言語にも亦律が必要なことさへ推定することが出來れば[#「人間の動作に律があるから」〜「出來れば」に傍点]、その音律と動作律とが、自我無言の覺醒する無目的活動に連れて、悲痛の靈と共に發現して來るのは當前なことであらう[#「その音律と動作律とが」〜「當前なことであらう」に白丸傍点]。悲痛の熱烈な程、その律に緊張の響が生ずる[#「悲痛の熱烈な程、その律に緊張の響が生ずる」に白三角傍点]。且、その上に運命なり、性格なり、事件なりがつき添ふて來るのは、自然即心靈の意味からして、また劇の運用上からして、止むを得ないことである。僕が處女作『魂迷月中刄』を作つた頃、故櫻痴居士は之を見て、そんな慘憺な悲劇はわが國には向かない、國人の嗜好は、人物の精神は勿論、身體迄の救濟に由つて、安樂に解决する悲喜劇[#「悲喜劇」に白三角傍点]であらうと云はれたことがある。これは、『朝顏日記』や『壺坂觀音靈驗記』などを指して居られると思はれた。僕はその時から居士の教に滿足して居なかつたが、今日では、その悲喜劇とは僕のいふ喜劇の部に這入るべきものである。
僕の考へでは、谷
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