その身中に意識して居るもの、スとへどんな徴證に由つても語り得るものはないとしても――かういふ物はすべてリヤ王、マクベス、ハムレツトの基礎になつては居ないか』とまで云つて居る。
天才を信ずる以上は、その作が世話物であらうが、時代物であらうが、そんなことには頓着しないで善い。僕は結論するが[#「天才を信ずる以上は」〜「僕は結論するが」に傍点]、當來の新文藝は、解脱と解决とのない表象悲劇であつて、それが冥想的で、また同時に律語の意に合つて居るものでなければならない[#「當來の新文藝は」〜「なければならない」に白丸傍点]――尤も之は一本調子の口調をつゞけよと云ふのではない――かう云ふ悲劇の存在するやうになると、シヨーペンハウエルが下だした藝術の定義の如きは、詩歌のは勿論、音樂に與へたのも、全然間違つて居ることが實證出來るのである。
(明治三十九年二月十一日、鎌倉建長寺に於て開會せし國詩社集會席上の演説原稿)
入力者注
(1) 底本の読点には、普通の点と白抜きの点の二種類がある。白抜きの読点は、普通の句点と読点の中間的に文を区切るのに使われて居るようだが、ここでは白抜きの読点を「,」で表わした。
(例)
第一、物品,第二、美,第三、言語,第四、教練。
ここで、「,」で表わした所が白抜きの読点になって居るところである。
(2) ギリシャ語の単語の末尾の「σ」は別の字体を用いるが、フォントがないので代用に「σ」を用いた。又、アクサン(´)付きの文字の場合アクサンを文字のうしろに置いた。本来は一字。
(3) 注記がなく、本文と底本とで字体の異なるものは、JIS X 0208:1997 の包摂規準に従い、代替漢字を使用した。
(4) はしがきに附録についての記述があるが、入力に使用した底本には附録は収録されて居ない。
(5) 入力者は底本にはないルビを若干追加した。
(6) 二一天作の五: 旧式珠算の割算九九の一つ。転じて珠算の計算。物を二分割すること。
(7) ピーアールビー: 底本では「ヒーアールビー」と誤記。"P.R.B." は、the Pre−Raphaelite Brotherhood の略。
(8) 瑞典: スウェーデン。
(9) 梨倶吠陀: リグヴェーダ。
(10) 以賽亞書: イザヤ書。
(11) 約翰傳: ヨハネ伝。
(12)
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