座ります』僕が云うたら、
『なアに、くそ! 沈着にせい』
『みなやられたらしいです。あたりには、軍曹どのとわたしとばかり。打たれるくらいなら先ずこッちゃから打って、敵砲手の独りなと、ふたりなと射殺してやりましょ』
『なにイ――距離を測量したか?』
『二百五十メートル以内――只今計りました。』
『じゃア、やれ! 沈着に発砲せい!』
『よろしい!』て、二人ともずどんずどん一生懸命になって二三十発つづけざまに発砲した。之に応じて、当の目あてからは勿論、盤龍山、鷄冠山からも砲弾は雨、あられと飛んで来た。ひかって青い光が破裂すると、ぱらぱらッと一段烈しう速射砲弾が降って来たんで、僕は地上にうつ伏しになって之を避けた。敵塁の速射砲を発するぽとぽと、ぽとぽとと云う響きが聴えたのは、如何にも怖いものや。再び立ちあがった時、僕はやられた。十四箇所の貫通創を受けた。
『軍曹どの、やられました!』
『砲弾か小銃弾か?』
『穴は大きい』
『じゃア、後方にさがれ!』
『かしこまりました!』て一心に僕は駆け出したんやだど倒れて夢中になった。気がついて見たら『しっかりせい、しつかりせい』と、独りの兵が僕をかかえて後
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