鹽原日記
岩野泡鳴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)福渡《ふくわた》り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一名所|神居古潭《かもゐこたん》の

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ごた/\して
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 十月廿七日、晴。急行で午後四時三十分頃に西那須驛に着した。實は、初めてのことで、而も急行は宇都宮《うつのみや》より先きは黒磯でなければとまらぬやうに旅行案内には出てゐたので、正直に黒磯までの切符を買つたのだが、車上で人に教へられて西那須へ下りたのだ。
 そこから自動車(乘り合ひ、一人前四圓)で五里半の道を四十五六分で鹽原の福渡《ふくわた》りと云ふ温泉場へ來た。その途々のいい風景は、日が暮れてゐたので、見られなかつた。どこへとまると云ふ當てもなかつたのだが、乘り合はせた老人夫婦も當てて行くと云ふので、一緒にいづみ屋別館へとまることにして、そこで自動車を下りた。團體が來てゐてやかましいが、あすは歸るからと云はれて、僕は老人夫婦のと前以つてきまつてたおもて向き坐敷の隣室へ這入つた。宿帳へは、どこへ行つても、
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