かりあるので、以上けふの日記をお前へ出しかたがた、そとへ出て、もッとさきの方の道へと狹い芝ばしを渡つて進むと、行く手の川ぶちに少し平らかな廣ろ場が見えて、植ゑ付けたやうに紅葉樹の幹が立ち並んで、多くの幹と幹とのあひだがこれも赤さうな太陽のよこ照らしに向ふのそらを透かし彫りにしてゐる。來たついでにそこまで行き付くと、入り口に梅ヶ岡と云ふ立て札がしてあつた。その中で僕の丁度一と部屋置いて隣りにゐ合はせた中年者夫婦が一緒に寫眞を取らせてゐたのを少し隔ててながめながら行くと、向ふの方から何だか見たやうな人がにこ/\してやつて來るのではないか?
お前は誰れだッたと思ふ? 婦人作家の○○さんなら、近ごろここへ來てゐるとか新聞にあつたから、ひよッとすると出會ふかも知れないとは思つてたが、小寺健吉氏とは僕も思ひも寄らなかつた。繪に適する位置を方々探してゐたらしい。而も同じ旅館の四階に來てゐるのであつた。渠《かれ》は毎年來るのだが、
「去年の今ごろは、もう、こうえふが半ば以上過ぎてゐたが」とのことだ。暫らく一緒に崖のそばの腰かけに休んだが、僕らの目の前に紅葉して崖の中腹からかしらを出してる二本の特別な
前へ
次へ
全13ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岩野 泡鳴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング