ンゲルス全集』、『資本論』、『日本地理大系』その他数十の全集を発行して来た。私はその代表的であり、画期的である円本全集のいわれを一言してみたい。

 あの大正十二年九月一日の関東大震火災のために、東京のずいぶん大多数の図書が丸焼けになった。そして、それからはいろいろな書籍の蒐集には甚だしい困難が伴ってくるとともに、いくら金を出しても集めることの困難なものができてきた。クラシックな書物の値段が高くなってくる。このとき一ばん困るのは読書子でなければならぬ。そこで金のあるもののところへだんだんすべての書籍が集められてしまう。そういうことになったら特権階級ばかりが、知識の独占者になって、それ以外の人びとは読みたい本も手に入るることはできない。というので、これには円本をやるよりほかに行く道がない。円本をやるとすればどこに第一着に手をつくべきかを協議したところ、それは明治から大正までの文学の大集成がよかろうというので『現代日本文学全集』が生るるに至ったのであった。そしてそれを大正十五年十一月発表するに至った。

 何分、一冊に集録さるる枚数が二千枚内外であったので、市価十円のものが一円で買えるとい
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