さし
どことなく何とはなしににぎやかだ
どこかで紙鳶のうなりがする
それときいてひとびとは
ああ春がきたなと思ふ
そして何か見つけるやうな目付で
水水しい青空をみあげる
てんでに紙鳶を田圃にもちだす子ども等
やがてあちらでもこちらでもあがるその紙鳶
それと一しよに段段と
子どもらの足も地べたを離れるんだ
※[#ローマ数字2、1−13−22]
萬物節
雨あがり
しつとりしめり
むくむくと肥え太り
もりあがり
百姓の手からこぼれる種子《たね》をまつ大地
十分によく寢てめざめたやうな大地
からりと晴れた蒼空
雲雀でも啼きさうな日だ
いい季節になつた
穀倉のすみつこでは
穀物のふくろの種子もさへづるだらう
とびだせ
とびだせ
蟲けらも人間も
みんな此の光の中へ!
みんな太陽の下にあつまれ
種子はさへづる
種子《たね》はさへづる
穀倉の種子のふくろで
はるがきたとてか
青空の雲雀も
それをききつけた百姓は
あわてて穀倉に驅けこみ
穀物の種子のふくろを抱きだした
或る雨後のあしたの詩
よひとよ細い雨がふり
しののめにからりとはれて
しつとりと
なにもかも重みがつい
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