大都會に通ずる
道は蔓のやうなものでそして脈搏つてゐる
まつぴるまの太陽も暗く
あたまから朦朦と塵埃をあびせかけられてゐる幻想
その塵埃の底にあつて呼吸《いき》づく世界きつての大都會よ
ああ大沙漠の壯麗にあれ
ああ壯麗な大旋風
その街街の大建築の屋根から屋根をわたつて行く
大群集の吠えるやうな聲聲
此の大都會をしみじみと
此の大沙漠中につつ立つ林のやうな大煙筒を
此のしづけさにあつて感ずる

  何處へ行くのか

またしても
ごうと鳴る風
窓の障子にふきつけるは雪か
さらさらとそれがこぼれる
まつくらな夜である
ひとしきりひつそりと
風ではない
風ではない
それは餓ゑた人間の聲聲だ
どこから來て何處へ行く群集の聲であらう
誰もしるまい
わたしもしらない
わたしはそれをしらないけれど
わたしもそれに交つてゐた

  梢には小鳥の巣がある

なにを言ふのだ
どんな風にも落ちないで
梢には小鳥の巣がある
それでいい
いいではないか

  春

どこかで紙鳶《たこ》のうなりがする
子どもらの耳は敏く
青空はひさしぶりでおもひだされた
いままで凍《い》てついてゐたやうな頑固な手もほんのりと赤味を
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