ききほれてゐるやうだ
その聲からだんだん世界は明るくなるやうだ
みろ、そのま上に
起つたところの青空を
草木《くさき》の葉つぱにぴかぴか光る朝露を
一切のものを愛せよ
どんなものでもうつくしい
わかい木挽はいよいよ聲をはりあげて
そのいいこゑで
太陽を萬物の上へよびいだした
老漁夫の詩
人間をみた
それを自分は此のとしよつた一人の漁夫にみた
漁夫は渚につつ立つてゐる
漁夫は海を愛してゐる
そして此のとしになるまで
どんなに海をながめたか
漁夫は海を愛してゐる
いまも此の生きてゐる海を……
じつと目を据ゑ
海をながめてつつ立つた一人の漁夫
此のたくましさはよ
海一ぱいか
海いつぱい
否、海よりも大きい
なんといふすばらしさであらう
此のすばらしさを人間にみる
おお海よ
自分はほんとの人間をみた
此の鐵のやうな骨節《ほねぶし》をみろ
此の赤銅《あかがね》のやうな胴體をみろ
額の下でひかる目をみろ
ああ此の憂鬱な額
深くふかく喰ひこんだその太い力強い皺線《しわ》をよくみろ
自分はほんとの人間をみた
此の漁夫のすべては語る
曾て沖合でみた山のやうな鯨を
たけり狂つた斷崖のやう
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