つてゐる
ほこりだらけのヴアヰオリン
それでもちよいと
草の葉つぱのどこかのかげで啼いてゐる
あの蟋蟀《きりぎりす》の聲をまねてみた

  收穫の時

黄金色に熟れた麥麥
黄金色のビールにでも醉ふやうに
そのゆたかな匂ひに醉へ
若い農夫よ
此處はひろびろとした畠の中だ
娘つ子にでもするやうに
かまふものか
穀物の束をしつかり抱きしめてかつぎだせ
山のかなたに夕立雲はかくれてゐる
このまに
このまに
いま
そして君達の收穫のよろこびを知れ
刈り干された穀物を愛せよ

  くだもの

まつ赤なくだもの
木の上のくだもの
それをみたばかりで
人間は寂しい盜賊《どろばう》となるのだ
此の手がおそろしい

 ※[#ローマ数字5、1−13−25]


  キリストに與へる詩

キリストよ
こんなことはあへてめづらしくもないのだが
けふも年若な婦人がわたしのところに來た
そしてどうしたら
聖書の中にかいてあるあの罪深い女のやうに
泥まみれなおん足をなみだで洗つて
黒い房房したこの髮の毛で
それを拭いてあげるやうなことができるかとたづねるのだ
わたしはちよつとこまつたが
斯う言つた
一人がくるしめばそ
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