麥畑はすつかりいろづき
ところどころの馬鈴薯《じやがいも》と
蠶豆《そらまめ》と葱と菜つぱと
大きな大きなみはてのつかない此のうつくしさ
一めん黄金《きん》いろに麥は熟れ
刈りとられるのをまつてゐるやうな此のしづかさ
あちらこちらではじまつた麥刈り
あちらこちらから冴えざえときこえる鎌の刃の音
水の迸《はし》るやうな此の音のするどさ
わたしの心は遠いところで歔欷《すすりなき》をやめない
彼女は何をしてゐることか
わたしは彼女のことを思つてゐる
その上に此のひろびろとした畑地の美しさを堆積《つみかさ》ねるのだ
片つ端から刈りとられる麥麥
冴えざえと鋭くきこえる鎌の刃の音
麥もわたしとその音をきいてゐるのか
ゆたかに實のり
ぐつたりと重い穗首を垂れた麥麥
都會にての詩
都會はまるで海のやうだ
大波のよせてはかへす
此の海のやうな煤煙のそこで渦く
千萬の人間の聲聲
よせてはかへす聲の大波
大きな一つの聲となり
うねりくねり
のたうちながらも人間であれ
ああ海のやうな都會よ
その街街家家の軒かげにて
飢ゑながら雀でさへ生き
そこで卵をあたため孵へしてゐるのだ
強くあれ
強くあれ
人間
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