日だ
けれど卓上はしづかである
ザボンが二つ
あひよりそうてゐるそのむつまじさ
何もかたらず
何もかたらないが
それでよいのだ
嵐がひどくなればなるほど
いよいよしづかになるザボン
たがひに光澤《つや》を放つザボン
此處で人間は大きくなるのだ
とつとつと脈うつ大地
その上で農夫はなにかかんがへる
此の脈搏をその鍬尖に感じてゐるか
雨あがり
しつとりとしめつた大地の感觸
あまりに大きな此の幸福
どつしりとからだも太れ
見ろ
なんといふ豐富さだ
此の青青とした穀物畑
このふつくりとした畝畝
このひろびろとしたところで人間は大きくなるのだ
おお脈うち脈うつ大地の健康
大槌で打つやうな美である
郊外にて
赭土の痩せた山ぎはの畑地で
みすぼらしい麥ぼが風に搖られてゐた
わたしはすこし飢ゑてゐる
わたしは何かをもとめてゐる
麥ぼの上をとほつてどこへ行くのか
そよ風よ
みどり濃く色づいた風よ
都會の空をみろ
烟筒の林のしたの街街を
つばめはそのなかをとんでゐる
人人もそこに棲むのをよろこんでゐる
ここにゐてきこえる
あの空に反響する都會の騷擾
そこはまるで海のやうだ
風はそよそよと
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